28/08/2026
【「受診すべきかAIに相談する」ということ】
― AIだけで自己診断せず、必要なときは医療機関を受診しましょう ―
最近、ChatGPTをはじめとする生成AIに、体調について相談する方が増えています。
「この症状は何の病気でしょうか?」
「病院に行ったほうがいいですか?」
「しばらく様子を見ても大丈夫ですか?」
生成AIは、病気について調べたり、症状を整理したり、診察前に質問事項をまとめたりするには、とても便利な道具です。
しかし、ここで注意しなければならないことがあります。
◆「AIが医学問題を正しく解けること」と、
「一般の方がAIを使って安全に自己診断できること」は、
同じではありません。
【一般の方がAIを使っても、AI単独ほど正確にはなりません】
2026年に医学誌『Nature Medicine』に発表された研究では、一般の成人1,298人を対象に、10種類の医療シナリオについて、考えられる病気と、その後どう行動するべきかを判断してもらいました。
同じ問題をAIだけに解かせた場合、関連する疾患を正しく挙げられた割合は「94.9%」。
ところが、実際に一般の方がAIと会話しながら判断すると、関連疾患を正しく挙げられた割合は「34.5%未満」でした。
また、「自宅で様子を見る」「医療機関を受診する」「救急受診する」といった行動判断についても、AIを利用した一般の方が通常の情報検索を行った人より明らかに優れているとはいえませんでした。
つまり、
★ AIが正解を知っている
=
患者さんがAIを使えば正解にたどり着ける
というわけではないのです。
【なぜ、そんなことが起きるのでしょうか?】
研究者が実際のAIとの会話を調べたところ、一般の利用者は「AIに診断に必要な情報を十分に伝えられていないことが多かった」ことが分かりました。
無作為に抽出した30件の会話のうち、16件では、最初のメッセージに診断に必要な情報の一部しか含まれていませんでした。
また、
「これはストレスが原因でしょうか?」
のように、最初から特定の原因を想定した聞き方をすることで、AIの回答範囲を狭めてしまうケースもみられました。
AIそのものが医学知識を持っていても、
・AIに渡される情報が不足している
・質問の仕方が偏っている
といったことがあれば、その能力を十分に発揮できません。
【「医師に話すとき」と「AIに話すとき」で、症状の伝え方まで変わる】
2026年に『Nature Health』に報告された研究では、500人を、
・「AIに伝えるつもり」で症状を書くグループ
・「医師に伝えるつもり」で症状を書くグループ
に分けて比較しています。
その結果、AIに伝えると思って症状を書いた場合、医師に伝える場合より「救急度を判断するための症状情報の質が約8%低くなった」と報告されました。
さらに、AI向けの文章は医師向けの文章より短く、症状の詳細も少なくなっていました。
◆ AIの診断能力だけではなく、
「人間がAIに何をどう伝えるか」が、
医療相談の精度を左右する可能性があります。
【患者さんの言葉と、医学用語の意味が違うこともあります】
ここからは、今回ご紹介した研究そのものが直接検証した内容ではなく、私が日常診療をしていて感じていることです。
もう一つAIによる自己診断を難しくするのが、
「患者さんが日常的に使う言葉」と
「医師が医学的に使う言葉」
の意味が、必ずしも同じではないということです。
【たとえば「貧血」という言葉】
診察室では、
「朝、貧血を起こしました」
「立ち上がると貧血みたいになります」
と伺うことがあります。
患者さんが伝えたいのは、
・立ち上がったときにクラッとした
・目の前が暗くなった
・ふらついた
という症状であることが少なくありません。
しかし、医学的な意味での「貧血」とは、一般的には血液中のヘモグロビンが少ない状態を指します。
立ち上がったときの「クラッとする感じ」は、起立性低血圧など別の原因で起こることもあります。
問題は、患者さんが日常的な意味で、
「貧血になりました」
とAIに入力した場合です。
AIは「貧血」という言葉を医学的な意味として受け取り、そこから推論を進める可能性があります。
患者さんが伝えたかった症状
↓
日常的な言葉に置き換える
↓
AIが医学用語として解釈する
↓
最初の情報にずれが生じる
このようなことも、AIによる自己診断が思わぬ方向に進んでしまう一因になり得るのではないか、と私は考えています。
【医師がAIを使う場合とは、事情が違います】
2026年8月に『Nature Medicine』に発表された別の研究では、一般の方623人とプライマリケア医153人を対象に、皮膚疾患の診断にAIを利用した場合の影響が調べられました。
AIが正しい答えを示したときには、一般の方も医師もAIの恩恵を受けることができました。
しかし、AIが間違った場合には違いがみられました。
一般の方では、AIがもっともらしい説明をすると、その誤った診断に引っ張られやすい傾向が認められました。
一方、経験のある医師では、AIが間違った答えを提示しても、その影響を比較的受けにくいことが示されました。
医師はAIの答えだけを見て判断しているわけではありません。
・年齢
・これまでの病気
・症状の経過
・診察所見
・血圧や酸素飽和度
・血液検査
・レントゲンやCTなどの画像
こうした情報と照らし合わせながら、
「AIが言っていることは、本当にこの患者さんに当てはまるのか?」
と考えます。
ここが、
「一般の方がAIだけで自己診断すること」と
「医師がAIを診療の補助として利用すること」
の大きな違いです。
【実際に、AIへの相談が受診判断に影響した事例も】
2026年には、俳優の柏原収史さんが大量の下血をした際、AIに相談していたことをインタビューで明らかにしました。
当初は大きな病気の可能性は低いという趣旨の回答を受け、一度安心したとされています。
その後も出血を繰り返し、最終的には救急搬送となり、大量輸血を伴う治療が必要となりました。
ただし、このケースでは途中からAIも医療機関への相談を勧めています。
したがって、「AIが誤診したためにすべてが起きた」という単純な話ではありません。
むしろ、AIから得たさまざまな情報の中から、本人が「自分はまだ大丈夫そうだ」と解釈してしまったことも重要なポイントです。
海外でも、ChatGPTへの症状相談後に肺塞栓症で入院した男性が、受診が遅れたのはAIの助言が影響したなどとしてOpenAIを提訴したことが報道されています。
こちらは現時点では訴訟上の主張であり、AIと病状悪化との因果関係が確定したわけではありません。
それでも、AIへの相談が「病院に行くかどうか」の判断に影響する時代になっていることは、意識しておく必要があります。
【AIには「診察」ができません】
AIには膨大な医学知識があります。
しかし、通常のチャットで相談しているだけでは、診察室で医師が行っていることの多くができません。
・患者さんの顔色を見る
・呼吸の速さや苦しそうな様子を見る
・胸の音を聴く
・血圧や酸素飽和度を測る
・身体に触れて診察する
・血液検査を行う
・レントゲンやCTを見る
さらに、患者さん本人が「これは関係ないだろう」と思ってAIに伝えなかった情報が、実は診断の重要な手がかりということも珍しくありません。
★ AIは相談相手にはなっても、診察そのものはできません。
【こんな症状では、AIとの会話より受診を優先してください】
・強い胸痛や呼吸困難
・意識が悪い、反応がおかしい
・大量の出血、繰り返す下血、黒い便
・突然の激しい頭痛
・ろれつが回らない、手足が動かしにくい
・高熱が続き、ぐったりしている
・症状が急速に悪化している
・「いつもと明らかに違う」と感じる症状
このような場合は、AIに何度も質問を続けるより、医療機関や救急相談窓口への相談を優先してください。
【AIはどのように使えばよいのでしょうか?】
AIは、
・病院に行く前に症状を時系列で整理する
・診察時に医師へ聞きたいことを整理する
・医師から説明された病名について一般的な知識を調べる
・薬について一般的な情報を調べる
・診察後の説明を整理する
といった使い方には、とても便利です。
一方で、
「AIが大丈夫と言ったから病院には行かない」
「AIが○○病と言ったから、それ以外の病気は考えなくてよい」
「AIに様子を見るよう言われたから、悪化しても受診しない」
という使い方はおすすめできません。
【最後に】
★「非常に優秀なAIがあれば、誰でも自分で正しく診断できる」
ほど単純ではありません。
AIがどれだけ医学を知っていても、
・患者さんが必要な情報を十分に入力できない
・質問の仕方によって答えが偏る
・患者さんと医療者で言葉の意味が異なる
・AIが間違っていても説得力のある文章を作る
・その回答を読んだ人間が「自分は大丈夫」と解釈してしまう
といった問題があります。
◆ AIは「受診の代わり」ではなく、
「受診を助ける道具」として使うのがよいでしょう。
AIで調べた内容がある場合には、診察時に、
「AIではこう言われたのですが、どうでしょうか?」
とそのまま医師に見せていただいてもかまいません。
AIを上手に利用しながら、最終的な医学的判断は医療の専門家と一緒に行う。
現時点では、それが最も安全なAIとの付き合い方だと考えています。
▶ 関連記事
「診察室で使われる用語の意味は?(呼吸器内科バージョン)」
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【参考文献】
1. Bean AM, Payne RE, Parsons G, et al.
Reliability of LLMs as medical assistants for the general public: a randomized preregistered study.
Nature Medicine. 2026;32:609-615.
2. Xu X, Hu H, Zhang H, et al.
Divergent impacts of explainable AI for dermatological diagnosis on clinicians versus lay people.
Nature Medicine. 2026;32:3000-3009.
3. Reis M, Reis F, Kim YJ, et al.
Reduced symptom reporting quality during human–chatbot versus human–physician interactions.
Nature Health. 2026.
※本投稿は、生成AIを利用した医療情報収集について一般的な注意点を解説するものです。個々の症状や病気については、診察や検査を行わなければ判断できない場合があります。症状が強い場合や急速に悪化している場合には、AIによる自己判断を続けず、医療機関へご相談ください。
最近、ChatGPTをはじめとする生成AIに、体調について相談する方が増えています。たとえば、「この症状は何の病気でしょうか?」「病院に行ったほうがいいですか?」「しばらく様子を見ても大丈夫ですか?」といった相談...