25/08/2026
神経は、「力」でも情報を伝えている。
人に触れる。
皮膚を押す。
鍼を接触させる。
これらは、単に身体へ刺激を加えているだけなのでしょうか。
神経は、電気信号と神経伝達物質によって情報を伝えていると考えられてきました。
ところが近年、「力」そのものも、細胞や神経にとって重要な情報であることが明らかになってきました。
2021年、東京大学と科学技術振興機構の研究グループは、脳のシナプスで起こる力学的な情報伝達を報告しました。
学習に伴って、神経細胞の樹状突起にある「スパイン」という小さな突起が膨らみます。
研究では、このスパインが膨らむとき、向かい側にある軸索終末を物理的に押し、その力を受け取った軸索終末から神経伝達物質の放出が増えることが示されました。
その増強は20分から30分ほど持続し、脳が短期的な記憶を保持する仕組みに関係している可能性があると考えられています。
つまり、シナプスでは電気と化学だけでなく、
「押す」
「押されたことを感じる」
という力学的なやり取りも行われていたのです。
皮膚への圧力が身体へ影響することは、日本でも以前から研究されていました。
生理学者の高木健太郎は、20世紀半ばに「皮膚圧-発汗反射」を研究しました。
身体の一部を圧迫すると、その周辺では発汗が抑えられ、離れた場所では発汗が促されることがあります。
皮膚への圧迫は、その場所だけで終わらず、自律神経を介して離れた場所の働きにも影響するのです。
高木は、皮膚を圧迫する面積を極端に小さくしたものが、鍼ではないかと考えました。
鍼を単に「刺す道具」として見るのではなく、微細な皮膚圧を与える道具として捉えたのです。
さらに曾我部正博教授らが研究してきた「細胞力覚」という視点では、細胞そのものが、押す、引く、曲げるといった力を感知すると考えます。
細胞膜や細胞骨格に加わった力は、細胞内の化学的な信号へ変換され、形態、移動、分裂、再生などの反応につながります。
力は、皮膚の表面だけで消えてしまうものではありません。
細胞に受け取られ、神経系へ伝わり、身体の調節に使われる情報になり得るのです。
もちろん、シナプスにおける力学的伝達の研究が、鍼や円皮鍼の治療効果を直接証明したわけではありません。
しかし、生体にとって微細な力が単なる物理現象ではなく、情報として働くという発見は、接触鍼や円皮鍼を考える上で重要な手がかりになります。
鍼は、深く刺すほどよいとは限りません。
強く刺激するほどよいとも限りません。
どこに、どの方向から、どれほどの力を、どのくらいの時間加えるのか。
身体は、その小さな違いを情報として受け取っている可能性があります。
触れることは、情報を送ること。
鍼刺激を「痛点への局所刺激」ではなく、「力覚を介して身体の調節を促す刺激」として捉え直すことが、これからの鍼灸を理解する一つの鍵になるのだと思います。
文:耳介画像鍼治療研究所 編集部
※中谷哲先生著『NAIRM方式神経反射治療』をもとに編集・再構成しています。
参考:[科学技術振興機構「脳は記憶を力で刻む」](https://www.jst.go.jp/pr/announce/20211125/index.html)
NAIRM方式神経反射治療
https://amzn.asia/d/58PCwaV
Practical Guide to NAIRM
Neuro-Reflex Regulation Therapy
https://amzn.asia/d/albZvJH